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第7話

「どういうつもり?」

 かなり怒ってるミサトさんの声音。

 思いっきり命令違反してるんだから仕方ないよな。

 とはいっても何を言えばいいんだ?

「なんで私の命令を無視したの?」

 黙ってる僕にじれたのか、ミサトさんが重ねて問い掛ける。

「まぁ、あの二人をエントリープラグに入れたのは仕方ないとしても、問題はその後よ。もし使徒を倒せなかったらどうするつもりだったの?」

 そんなの考えもしなかった。

 僕にはああすれば勝てるって分かってたんだから。

 いや、違うな。

 そうしなかったらどうなるかなんて思いつきもしなくて。

 その可能性を考えようとしなかっただけだ。

 前と違うことが起こったら僕には対処のしようがない。

 だから安易な手段をとったんだ。

 お笑いだよね。

 この世界に来たばっかりの頃はなんとでもなるって思ってた。

 これから起こってることが分かってるんだから。

 前と同じ事をしないのは、そうするのがただ面倒だからだなんて。

 自分をごまかして。

 ホントはただ怖かっただけ。

 違うことをして。

 それによって僕の知らないことが起こるのが。

 そしてそれに向き合わなきゃいけないのが。

 以前の知識があるせいで、僕は前以上に臆病になってしまってた。

 でも、そんなことをミサトさんに言うわけにはいかなかった。

 だからただ一言。

「すいません。」

 とだけ答えたんだ。

 そうしたらよけいに怒られた。

「すいませんで済むようなことじゃないわ。」

 ミサトさんは作戦の責任者なんだから。

 だから僕はミサトさんの命令に従わなきゃいけないって。

 正論なんだと思う。

 けど、僕にとっては命令よりも過去の記憶のほうが確かなんだ。

 だって。

「戦ってるのは僕でしょ?」

「どういうこと?」

「使徒を目の前にしてるのは、使徒と戦ってるのは僕なんですよ?」

「だからシンジ君の好きなようにやらせろって事?」

 声に抑揚がなくなった。

 本気で怒ってるな、これは。

「そこまでは言いません。でももういいじゃないですか、勝ったんだから。」

 そうしたら思いっきり殴られた。

「あなたね、自分の任務をなんだと・・・」

 そこまで言って。

「もういいわ。家に帰って休みなさい。」

 ミサトさんは、背を向けながらそれだけを口にした。



 それから数日間。

 僕は学校にも行かず、ただ部屋に閉じこもってすごした。

 理由は特にない。

 ミサトさんは使徒戦の後の口論を気にしてるんだと思ってるみたいだけど。

 そんなの僕にとってはどうでもいいことだから。

 しいて言えば前にそうしてたからかもしれない。

 ・・・確かその後で家出したんだよな。

 ならそうしなきゃな。

 とりあえず、部屋とかを掃除して一通りきれいにしてから家出しようと思ったら。

 ミサトさんの部屋で見つけてしまった。

 『サードチルドレン監督日誌』って書いてあるノートを。

 中身は僕の日常生活に関するこまごまとした事と、それに対するミサトさんのコメント。

 前は気付かなかったけど、ミサトさんはこんなものつけてたんだ。

 まぁ、しかたないのかもしれない。

 チルドレンがそれなりに重要な存在だってのは分かるし。

 ミサトさんにしたって積極的にこんなことをやってるんじゃないって信じたい。

 だからって、監視されるのが面白いってわけじゃない。

 ほかの、学校とかネルフの中でっていうなら我慢もできる。

 けど、家の中までっていうのはうんざりだ。

 とはいえ。

 それでどうしようっていうんだ?

 これを理由にミサトさんとの同居を解消するのか?

 そうしたらそうしたで、その後どうやって暮らしていけばいいのかわからないんだよな。

 だったら僕がそのことを分かってればそれでいいのかもしれない。

 わざわざ波風立てなくてもさ。

 結局、そういう結論に落ちついて。

 僕は書置きをしてミサトさんの家を出た。



 で。

 前と同じようにあてもなくさまよって。

 映画館とか電車の中とかそういうところで時間をつぶして。

 たしか前のときは大湧谷のほうに行って、そこでケンスケに会ったんだよな。

 その後で諜報部の人に見つかったんだっけか。

 そのとおりにしといたほうがいいんだろうけど。

 でも、ケンスケには会いたくない。

 というより、会ってしみじみと話をしたりなんて、今の僕にはできないことだから。

 それならどこかの公園ででも転がっていようか。

 そうすればさっさと見つけてくれるだろうし。

 そう思って公園のベンチに寝転んでいたら。

 なぜか、やってきたのは綾波だった。

「・・・どうしてこんなところで寝ているの?」

 いつものように感情のない声。

 ホントにただ聞いてるだけなんだろうなぁ・・・って、よく考えたら「聞く」って事自体おかしいような。

 この頃の綾波なら僕のことなんて無視して通りすぎるような気もするんだけれど。

 それはともかく。

「どうしてって言われてもさ。」

 そう言って、体を起こして普通にベンチに座る。

「家出したんだ。それでこんなとこで転がってる。」

「・・・そう。」

 僕はこれで綾波が行ってくれると思ったんだけど。

 綾波はずっと僕を見つめながら立っていた。

 それで何か言わなきゃいけないような気になって。

「ミサトさんのところには戻りたくないんだ。だから・・・」

 って言ってみて。

 思いつきで言った割には結構本心だったってのに気付いた。

 監視うんぬんってのはおいとくといても。

 あの家は以前のことを思い出させてしまうから。

 普段は忘れていても、何かの拍子に思い出す。

 楽しい記憶もあったはずだけど。

 思い出すのはつらいことばかりだ。

 だからだろうか。

「・・・じゃあ、家に来る?」

 って綾波が言った時に思わずうなずいてしまったのは。

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