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第12話

「家出したのはたいした理由があったわけじゃないんです。」

 淡々とそう言ってみせる。

「ちょっと一人になってみたくなったって、それだけなんですよ。」

「それでこんな騒ぎを起こしたってワケ?」

 あきれたような口調。

「もともと、この街から出るつもりはありませんでしたし。適当にうろついてれば保安部の人が見つけるだろうとも思いましたから。」

 そう、見つけられるのは予定どうり。

 引っかかるのはなんで今日の朝までかかったかって事だよな。

 今はどうでも良いことなんだけどさ。

 今はミサトさんをなんとか説得しないといけないんだから。

 で、軽く肩をすくめて続ける。

「だから、正直それほど大事になるとは思ってなかったんですよ。色々あったから少し頭の中を落ちつかせたくて。」

 こんなの嘘だけどさ。

 でもこれを疑う理由もないはずだ。

 実際、置き手紙にもしばらくさまよいたい、くらいのことしか書いてないし。

 ただ納得するかってのほ別問題だよね。

「だからって・・・」

 言いかけたミサトさんに僕は一言だけ滑り込ませた。

「サードチルドレン監督日誌」

「っ・・・」

 それだけでミサトさんの動きが止まる。

 基本的にいい人なんだよね、ミサトさんは。

 だからこれだけで動揺してくれる。

 それにつけこもうっていうのが少しためらわれるけど。

 でも仕方ないよね、この場合。

 普通にいって説得したりできるとは思えないしさ。

「さすがにああいうのがあると・・・」

 で、傷ついたような表情を作って見せる。

「あ、あれは・・・」

「わかってますよ?別にそのためにミサトさんが僕との同居を言い出したとは思いませんし。」

 一拍置いて。

「でも、監視されてるってわかっちゃったら、もうあそこには住めないかなって。その辺の事を一人で考えてみたかったって、そういういうことです。」

 しばらくミサトさんは何も言わなかった。

 僕も口を開こうとは思わなかった。

 けど、さすがに沈黙に耐えられなくなったのか、ミサトさんがこんなことを言い出した。

「・・・それで、これからどうするの?」

「一応、あてはありますから。」

「シンジ君はここに来たばかりでしょ。どんなあてがあるっていうの?」

 ・・・まだ、僕のことを心配してくれてるんだもんな。

 さすがに心が痛む。

 けれど、このまま家族ごっこを続けたとしたって。

 最後には破綻するってわかってる。

 どうせそうなるんだから。

 だから今終わらせれば、っていうのはただの気休めなんだろうな。

 われながら、何考えてるんだか。

 自嘲気味に笑って、ミサトさんに答える。

「綾波の所です。」

「レイの!?」

 意外そうだなぁ。

 まぁ当然だけどさ。

「ちょ、どういうこと?」

「どうって言ったとおりですよ。昨日も綾波の所に泊めてもらったんですし。」

「けど・・・さすがにそれはまずいんじゃない?」

 年頃の男女が二人で暮らすのはって?

 綾波とのあいだにそういうことが起こるとは思いがたいけど。

「それなら、あんなとこに女の子一人で生活させてるほうがよっぽどまずいと思いますけど?」

「まあ、それはそうなんだけど・・・」

 ・・・結局。

 だいぶ時間はかかったけどなんとかミサトさんを説得できた。

 なんかいろいろ言い合ってるうちに当初の険悪な雰囲気が薄れたのが怪我の功名ってヤツかなぁ・・・

 めちゃくちゃ疲れたけど。



 それで。

 部屋から出る時に。

 ミサトさんに言わなきゃいけないことがあるのに気付いて。

 でも、ミサトさんの顔を見たら言えなくなりそうで。

 だから背中を向けたままこう言った。

「ミサトさん、こんなふうになっちゃったけど、一緒に住もうって言ってくれたこと・・・うれしかったです。」

 これだけは本心だった。

 あんな結果に終わったとしても。

 それでも楽しかったことだけは事実だから。

 本当なら「あの」ミサトさんに言わなきゃいけなかったこと。

 でも、もう言えないから。

 せめて今のミサトさんにでも聞いておいて欲しかった。

「ばかね、なにいってるのよ。」

 少し照れたように言うミサトさんが、たとえたとえ僕の知ってるミサトさんとは違うんだとしても。

 それでも少しだけ心が軽くなったような気がした。

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